今回ご紹介する「サービスとは?」は、サービス向上研修、ホスピタリティ向上研修など、サービスにかかわるCS向上研修(顧客満足向上研修)の基礎となる考え方です。この考え方を整理しておかないとサービスのどこに問題があるか理解できません。自分の組織は、「サービスそのもの」が理解できていないのか、「機能的なサービス」と「情緒的サービス」のどちらが、もしくは両方不足しているのかなどをご検討する資料にしてください。
「サービスとは?」
「サービス」は、広辞苑に「奉仕、給仕、接待など物質的な生産過程以外で機能する労働」と載っています。
ショッピングセンターにおけるサービスを具体的業務で上げてみましょう。
オープン前は、サービスを提供するための準備をする段階です。清掃、花壇の手入れ、商品の整理整頓や補充、事前にキャストが各種情報を収集、各設備機器の試運転、フロアーガイドを事前に準備するなどです。
オープン中、サービスと呼ばれる大部分が行われます。挨拶からはじまり、商品の案内、食事を提供するのもサービスであり、エンターテイメントも、駐車場の案内も、空調が適した状態で稼動していることも、街を清掃することもサービスです。
終了後も、清掃や本日来店されたお客様の情報整理、そのお客様へのダイレクトメールを発送するなどもサービスです。
このサービスには、大きな特性が2つあります。
「サービスは、保存できない」
例えば、
(1)清掃状況をお客様が見て「いつも、きれいだな」と感じるその瞬間の場所と時間にだけお客様の気持ちが存在するため、形としては残らない。
(2)レストランでスタッフが声をかけ、新しいお冷を提供したその瞬間の場所と時間だけ事象として起こり、形として残らない。
「サービスを受ける人によって、感じ方が違う」
サービスを受けたお客様の思いは多彩です。
(2)の事例で考えてみると以下ように感じるかもしれません。
①「ちょうど、お冷がほしかったんだ。」
②「あまり、ほしくないけど、とりあえず、頼んでおくか。」
③「いい笑顔だな。」
④「愛想がないな。」
この感じ方にしても、思いにしてもそのサービスを受けたお客様の状況や経験、年齢、性別などあらゆるファクターの組み合わせにより、違ってくるということです。指紋に同じものがないのと同様に同じ感じ方はひとつとしてありません。(ただし、分類することは可能です)
また、サービスを2つの性格に分けてみましょう。
①機能的サービス:サービスを受けるお客様が「便利である」「不便である」と感じるサービス(主にフロアーガイドとかパーキングサービスのシステム、銀行ATM、トイレなど)
②情緒的サービス:“人”からサービスを受けたお客様が「良い印象を受けた」、「悪い印象を受けた」と感じるサービス(挨拶や笑顔、付加価値のついた情報の提供など)
この2つの特性と2つの性格を踏まえて、お客様の大半が、「便利である」であるとか、「良い印象を受けた」とかを感じさせることが、重要と考えられます(計量化することはなかなか難しいが)。
少なくとも「不便である」、「悪い印象を受けた」を感じさせないことを心がけるべきだと思います。「便利である」「良い印象を受けた」はお客様からみてプラスの思考であり、「不便である」「悪い印象を受けた」は、マイナス思考です。
マイナスの思考は、一部苦情となって表面化することがありますが、一般的にこれらは、氷山の一角といわれています。また、特に対策を立てていないのに、苦情が減る場合があります。この時、その組織は相当危険な状態であると言えます。すなわち、最初は期待を込めて、苦情として表面化しているが、この期待を裏切り続け、失望感から苦情が減少していくということが考えられるからです。
苦情にしても、満足にしてもお客様の微妙な心理を意識しないと商売に大きな影響を与えます。
割引価格を例にとると、飲みたいと思っていた定価1万円の洋酒を5千円で買うことができ、お客様は満足したとします。2週間後、この店に来たとき同じ商品が5千5百円で売っていたとします。定価より4千5百円安く購入できたわけですが、どのように感じるのでしょうか。考えられるのは、「前より少し高くなったな」ではないでしょうか。この場合、それでも安いと購入するお客様もいますが、高くなったことで購入を控えるお客様もいるということです。
つまり、お客様の心理として、前回と同じもしくは、それ以上の価値を感じないと満足感は、得られないということです。これが、300円ならどうか(割引サービス)、2週間という来店頻度はどうか(期間サービス)、このお客様への応対はどうか(個別サービス)など様々な心理や行動を考えることでより高いサービスを提供することができるわけです。
サービス心理は、常に考えていかなければならないものです。
あるショッピングセンターに初めて行ったときとても楽しい体験をしたとします。何よりもスタッフ一人ひとりの応対が礼儀正しく、親しみやすく感じたとします。この感じを次来たときも同じことを望むのは、お客様として当然の事です。
ところが同じようなサービスを何回も受けていると人は順応して、当たり前のように感じるようになります。つまり、「満足の度合い」が同じサービスでも低下するということです。
また、次にこのショッピングセンターに行った時、不満足を感じたとします。すると楽しい体験とのギャップが大きいほど落胆の度合いも大きくなる傾向があります。
しかし、心理とは面白いもので、そのショッピングセンターのファンになると面白い現象が起こることがあります。ファンになってたまたま不満足な対応をされたとします。人にもよりますが「ファン」になると「これは、たまたまだな。でも、気になるな。一応電話してやるか」と不満足な状態でも応援してくれるようなお客様がいるのです。このよう顧客は、浮気することなく、ファンになった企業を応援します。ソニー商品のファン、ネット検索ならグーグル、インスタントラーメンなら日清の「カップヌードル」、家族で行くなら「東京ディズニーランド」といった具合です。よくいう「CS(顧客満足)」を超えた「CL(顧客忠誠)」です。
しかし、ファンを裏切り続けると見放されます。
つまり、サービスは常に進化していかないとお客様の満足を高められず、最悪、お客様が去っていく可能性があるということです。
これを防ぐためには、スタッフ一人ひとりのホスピタリティ(思いやり、誠実)のこころであり、このホスピタリティに基づいた情緒的サービスが求められるということになるわけです。
これをスタッフ個人の自覚に任せておくのではなく、組織が個人をモチベートする環境を創ることが求められると考えています。また、そのようなスタッフが揃った企業は、特別な商品、機能、価格、ブランドを持つ企業と同様に強い企業であり、一時的な強さではなく、中長期的な強さを発揮すると思われます。
≪参考≫東京ディズニーリゾート、複合商業施設「イクスピアリ」のサービス向上
JSP代表